ブラック企業

 

ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪 (文春新書)

ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪 (文春新書)

著者は1983年生まれ。大学在学中、「何が何でも正社員に」という大学側の「キャリア教育」に疑問を持ち、就活のトラブルを受け付けるNPOを設置。以来、わざと多めに採用してふるい落とす「研修」や「カウンセリング」の果てに「自己都合退職に持ち込むように仕向けられた若手正社員達の相談を通じて、若い人材をにしてはばからない「ブラック企業」や、それを指南する「ブラック士業」(悪徳弁護士、コンサルタント、社労士)が、日本経済および社会にいかに害悪をもたらすかを指摘する。
 ユニクロワタミ、ローソンなど、誰でも知っている企業から内定を得た新卒者が「社内シューカツ」でボロボロにされ、鬱病による「休職」を経てから退職に追い込まれる姿は壮絶。ただ、それが単なる「告発」にとどまらず、廻りまわっていかに日本の社会に悪影響を及ぼすのかや、「戦略的な人格破壊」に対して若者はどう自己防衛するべきかなどを具体的に示している。
 「日本型雇用慣行」は、実はそれほど古いものではなく、1950年代の壮絶な労使対決の中で紛争回避のための「落としどころ」として至ったこと(強大な指揮命令権やサービス残業を強いる代わりに永年雇用や福利厚生を保証)、現代の企業の「ブラック化」は、雇用不安の中で企業が日本型雇用の「いいとこどり」をしている(指揮命令権を維持しつつ、身分保障は放棄)という指摘は鋭い。厳しい就職活動を勝ち抜いたエリートほど理不尽な研修に着いていけない自分を責めてしまい、鬱病になる構造は、「DVの被害者」と同じである。
 「シューカツ」に違和感を感じる大学生、「だから“ゆとり”は・・・」と嘆く上の世代、そして「キャリア教育」の美名に酔ってしまっている教育関係者はぜひ読んで欲しい。そして、筆者がいうように、「鬱病になる前に相談」が鉄則だと思う。