山手線をめぐる官民の攻防史

 

山手線誕生―半世紀かけて環状線をつなげた東京の鉄道史

山手線誕生―半世紀かけて環状線をつなげた東京の鉄道史

 地方公務員(区役所勤務)の傍ら「鉄道史研究家」として執筆活動を続ける著者。日本人なら誰でも知っている「山手線」を題材に、明治日本の鉄道敷設をめぐる官・民・そして地域住民の攻防をわかりやすい文章で活写している。
 新橋〜横浜間に鉄道を開設することに奔走した若き官僚(20代後半)だった伊藤博文大隈重信のエピソードから物語は始まる。敷設に強硬に反対した薩摩藩邸や軍の敷地を避けるために海上に堤を作ってその上を通す(今は埋め立てられて陸続き)奇策が面白い。その後、西日本までの路線をどうするか(当初は高崎から西に向かう「中山道線」が最有力)の検討が進む中、華族が出資した初の私鉄「日本鉄道」が上野から北へ工事を始め、品川〜上野をどうつなぐかでの駆け引き、何もない原っぱに作られた「東京駅」、用地買収と煤煙対策で最後まで難航した「秋葉原〜東京」間など、1周するのに50年かかったという鉄道史はドラマそのものである。各駅もそれぞれの思惑の中で引越しを繰り返している(品川駅が品川区でなく港区にある理由の説明に感心した)。
 会話を増やし、小説仕立てにして読みやすさを狙っているものの、「ほんとにそう言ったかなー?」と思えるところもあるのでちょっとマイナス。それでも、硬い文章の学術書、雑学うんちく本とも違う読みやすくてためになる本である。