消化に良い宇宙論のフルコース(ただし毒あり)

宇宙エレベーター

宇宙エレベーター

 著者は「トルコ人初の宇宙飛行士」(になるはずの人)。でも、専門は建築学で、宇宙物理学にも詳しく、東京を 、拠点に研究活動をしている。なんだかよくわからないが、同い年。学歴も、スイスの高校を問題行動で中退、でも、アメリカで建築の修士号、東大で建築の博士号を取っている。風貌はデーブスペクターのようであり、一言で肩書きを掲揚しにくいところ、つかみどころのなさも何か似ている(失礼!)
 それはともあれ、この手の理系本にありがちな、「わかる人だけわかればいいや」的な表現ではなく、ところどころに自伝あり、空想小説仕立ての問題提起ありで、飽きることなく一気に読めた。タイトルは、宇宙エレベーター(上空35786kの静止軌道と地上を一本のケーブルでつないで物資や人間が上下する構造物)だが、時間の話、「次元」の話(11次元宇宙論)、古代文明の話(古代に核戦争があった?)等々、博覧強記な著者があらゆる材料を駆使して「常識を疑う」ことを説いている。
 ドラえもんの「4次元ポケット」は、なぜどこまでも無限にモノが入るのか、「タイムマシン」で過去や未来に行くのはいいけれど、地球や宇宙そのものはものすごい速さで移動しているのだから、位置はそのままで時間だけ動いたら、乗っている人は間違いなく宇宙空間に放り出されるとか、「そういえばそうだな」と思える事が次々に提起され、話が難しくなってきた頃にカラー写真やページの色が変わる(黒地に白文字)になったりするなど工夫が凝らされている。中身はバリバリに理系だが、構成は文系チック。かつ行間も広くてで読みやすい。盛りだくさんながら、胃にもたれず、消化に良い宇宙論のフルコースといった趣きである。

【追記】 この本が出たのが2006年。彼は今何をしているのかな?と思って調べたら、学歴詐称・経歴詐称で東大始まって以来の「博士号剥奪処分」を受けてました。
 経歴も嘘だったり、実在しない機関も含まれているとか(ガクリ)。まあ、持ち前の頭の良さと、口八丁で、ハンデのある環境(ドイツで育ったトルコ人)から脱出しようとした人間の壮絶なる狂言、日本人の、特に文系人の「理系インテリ崇拝」による失敗例として読み直すと、また違った味わいが出てくるでしょう。旧石器時代の遺跡捏造(神の手)と同じですね。うーん、一杯食わされた。「毒キノコ」をそうとも知らずに美味しくいただいて、笑いが止まらない・・・そんな感じです(苦笑)。

 西図書館440.4