水の技官が語る、水道技術と水文化のうんちく

水を訪れる―水利用と水資源開発の文化 (中公新書)

水を訪れる―水利用と水資源開発の文化 (中公新書)

 建設省(当時)の局長の著者が語る「水」と「水道」の世界。
世界のお風呂(第1章)から始まり、水道の歴史、渇水への対策、水道の未来、水道と下水道から見た超先進都市「江戸」と「ローマ」などなど。
 考えてみると、1000万人以上の人口を抱える都市で、蛇口をひねれば(or水洗便所のレバーをひねれば)水がどどーっと出るという環境を保証するというのは、実はものすごく大変な技術であるということがわかる。日本の川は「川」ではなく「滝」というくらい傾斜がきついし、河況係数(水が少ない時と多いときの比率)が1000倍(!)というくらいに気まぐれな川(ヨーロッパはせいぜい20倍ぐらい)を相手に水源を確保する事自体至難の業である。
 最近、日本の自治体が「水道システム」の輸出に力を入れているが、「新幹線」や「電力」と並んで「水道」はとんでもなくすごいシステムであるということがこの本を読むとよくわかる(それを2000年近く前に実現していたローマもまたすごいが)。
 妙に景気が良さそうな、あるいはやたらに危機感を煽ってくくる「水ビジネス」の本にちょっと疲れたら、この本をおすすめしたい。
東京の水源確保の項で、さりげなく「八ツ場ダム」の名も出てくる。
それにしても、この本が書かれた頃、著者はいろんな意味で「こんなことになる」とは思わなかっただろうなあ・・・