「黒船」の国から見た「電子書籍」

電子出版の未来図 (PHP新書)

電子出版の未来図 (PHP新書)

 KindlleとiPadの産地、アメリカでコンサルタントを手掛ける筆者は1974年生まれ。UCLAでの専攻は地理学と環境学アメリカから眺めた日本の電子出版地図を描き、鋭い批判を加えている。

 筆者は出版コストが徹底的に下がることによって、「書き手」が自由に本を作り、利益を出るモデルを予測しているが、玉石混交の中で、一定の「質」を保証するのはやっぱり出版社(のお墨付き)ではないかと思う。「一度紙の本として出版された=編集者の眼鏡にかない、商業ベースの出版に載った」という事実が、たとえ数百円でも「ネットにお金を払う」ことへのハードルを下げるのではないかと思う。

 評者は、筆者がけちょんけちょんにけなしている「新書」の可能性に注目したい。確かに、単価が安く、豊富な品ぞろえと発行頻度の高さで本屋の棚を占拠し続けなければならない使命にある「新書」は、「質より量」「二匹目のドジョウ」狙いになってしまっているという筆者の指摘は正しい。ただ、「新書」自体は、装丁やページ数を規格化する事で出版や流通・保管コストを下げて、良質な教養を安く広く伝えるための日本の「発明」である。新書本来の「手軽さ」を生かして、中小の出版社には独自レーベルの新書の発行にチャレンジしてもらいたい。
 
 本を1冊出版して全国に配本するとして、仮に300万円かかるとしよう。1冊600円の新書なら、5000部刷らなければならない。しかし、専門書では、そもそも5000人も読者がいるわけがないので、刷る部数も減り、必然的に単価は高くなる。例えば、1000部だったら単価は3000円である。いくらその学問に興味があっても、1冊3000円とか、5000円の本にはそうそう手が出ない。故に売れないという悪循環が起きる。
 一方で、自費出版の相場を見ると、最近は「10冊刷って8万円」というような超小ロットの業者が出てきている。+3万円手数料を払うと、IBSN符号を取って、Amazonに正規出品してくれるそうだ。この手の業者は同時に「電子書籍」の作成もしている。恐らく、電子書籍を売りたい著者が「はく付け」用に、紙の本を出してAmazon上で取り扱うという需要を見越しているのだと思う。本書の著者が言うように、今後、デジタル本のセールスは著者自身のブログやSNSツイッター等が中心になるだろうし、たとえ「現物本」が10冊しかなくても、それが¥3000とか値段が付けられていても、それで良いのである。Apple Storeあたりで1ダウンロード¥1500で電子書籍のみを売り出したら、「何様じゃ!」と言われるかもしれないが、紙本で¥3000の物とセットで見れば「お得」である。

 著者のいう「新たな書き手よ出てこい!」という呼びかけには共感を覚える。ただ、日本で「電子書籍一本で書き、稼ぐ」には厳しい。一方で、弱小出版社も座して死を待つくらいならば、自分達が築いてきた「ブランドイメージ」と「編集・販売スキル」をどんどん活用して欲しいと思う。
 大量生産、大量販売の時代は終わった。小ロット多品種時代である。是非、「電子書籍」という黒船に上手に乗っかって行きたいものである。