「バット職人」達の珠玉の名言

 一気に読めた。良質のルポタージュである。

 イチローがこだわりを持って使い続けるバット材「アオダモ」。北海道の日高山中に自生し、70年かかってようやく使い物になる天然木だが、ここ数年「もはや生産不能」というところまで追い詰められている。
 かつてアオダモにこだわって「山」を守る親子の取材からバット職人の世界にのめりこんだ著者が、危機に瀕しながらも伝統を守り抜く職人達をルポして「アオダモ」は死なずと結論付けたものの、2010年夏、相次ぐ関係者の死に突き動かされての「3度目の旅」では、もはや再起不能の実態に直面し、筆者はかつての楽観論を恥じ、そして深く考える。

 読み応えがあるのは「自然の一部を切り取って仕事をさせてもらっている」「注文を受けて、それに合わせて物を作る」事に徹する「職人」達の言葉である。主旋律の合間にボソッとこぼれる職人達の言葉は、重低音のように響き、この本全体の質感を高めている。「バット」を通じてリレーされる、職人達の想い。そしてそれを全身全霊を込めてスイングする一流選手達もまた「職人」である。全体を通して筆者の「職人」への敬意が、サラリーマンからフリーランスに転じた頃からの筆者のキャリア軌跡と重なって、いい感じで響きあっている。

 新書をあまり読みなれない、それこそ「野球部の高校生」あたりにも、是非読んでもらいたい。「一流」を目指すなら、こんな良質の文章をじっくり読みこなす人間であってほしい。