異ではあるが端にはあらず。

異端の系譜―慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス (中公新書ラクレ)

異端の系譜―慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス (中公新書ラクレ)

 早稲田出身の読売新聞社の教育担当デスクが書いた慶応SFCのドキュメント。20年の成果を踏まえつつ、問題点もちらちらと指摘している。
 名物教授や社会で活躍する卒業生や参考文献がずらっと並び、「元気な若者の見本市」、「大学を考える上で読んだ方がよい本のインデックスカタログ」として利用できる。第三者的な視点を維持しつつ、「江藤淳というアンチ」(69〜72p)や、「AO入試の影響度」(78〜90)など、「まず改革ありき」の大学の風潮に対して痛烈な批判も投げかけている。志願者、倍率が下がり続け、附属校からの進学者が極度に少ないという指摘も興味深い。
 最近、SFCのサイトからは講義が動画で配信されており、本書でも取り上げられている村井純教授の「インターネット」の講義も見ることができる。ただ、気持ちよさそうに語る先生(確かに何度も学生を煽っている)に、満員の学生からコメントも突っ込みが入るわけでもなく、学生達は無言でひたすらノートパソコンをパチパチ叩いている(これがほんとのノートパソコン?)のには違和感がある。
 SFCのパイオニアは筆者とほぼ同世代。彼ら彼女らの活躍は、建てたスタッフの情熱と、団塊ジュニア、元祖就職氷河期世代の気骨によるところも大きいのではないか。
 初期の卒業生は、今のSFCに言いたいこともたくさんあるだろう。ただ、悲しいかなそういう「生え抜き」にSFCの首脳陣は未だバトンを渡していない。SFCが「慶応帝国」内の「満州国」から脱するためには、高等教育を系統立てて語れる研究者の育成と、優秀な人材にしかるべきポストを与えることなのではないか。
 慶応には、日本の大学を引っ張る使命がある。ちょっと「辛さ」が足りない気がしたので辛く書いてみたが、SFCは面白い大学だし、志望する生徒がいたら何が何でも行かせてあげたいと思った。
 今後、さらなるチャレンジに期待したいところである。