「数学が出来る」ということ
- 作者: 芳沢光雄
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/04/19
- メディア: 新書
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数学的な思考力が高い人間は“地図の説明”がうまい。」との一節に膝を打った。就職試験の面接で、受験者の論理的な思考力の発達を見るのに一番なのが駅から面接会場までの道筋を説明させることなのだそうだ(そしてそれをスラリとやってのける学生が減っているらしいが)。著者は、生徒にすぐに答えを見せてそれを暗記させることでよしとしている現在の数学教育を嘆くが、読んで脳裏に浮かんだのは「カーナビ」「路線案内」「ネット検索」だった。数学に限らず、日本の子供たちのロジックそのものが危ないかもしれない。
インド人はなぜ数学に強いか、それは2ケタの数の掛け算を暗記しているからではなく、小学生から高校生まで徹底して「証明」問題を解かせるからだという。「定理」を見出し、「誰にもわかるように書いて説明する」訓練と、「すぐに答えを見ない」ことを徹底させる事で考える力、筋道を立てて伝える力を養うという。学びたいところである。
「ここまで考えたんですが、どうしてこの答えになるのかがわかりません。教えてもらえませんか?」という質問をすることも受けることも少なくなった。代わりに「どこがテストに出るんですか?」「何をやったらいいんですか?」という質問が花盛り(それは質問ではない。“尋問”だ)。「聞く前に悩み抜いて、どこがわからないのか『論理的に』説明する事が出来て初めて“理系”だよね」と嫌味の一つでも言いたくなる。と、これを読んでカチンときた理系諸君はこの本を読むべし。「数学は嫌いだ」と嘆く文系諸君は、この本を読んで救われるべし。
社会の数字を相手に「法則性」や「因果関係」をつかみ、地図や言葉で説明する学問が「地理」である。一文字替えれば「数理」。やっている事の水脈は共通しているのではないだろうか。
もう一度数学の本をしっかり読んでみようという気にさせる一冊でした。
【富士市立中央図書館 B410.4】