頂点を極めた男のライフワーク

 アルピニスト野口健。史上最年少(当時)大学3年生で世界5大陸の最高峰を極めた男。私と同い年・・・・。よくラジオの石油会社のCMで熱く語るシーンが頭にある程度で、いったい彼は何者なのか、頭の隅にずっとあったのですが、これを読んですとんと来ました。
 オリンピックが終わった選手、とりわけメダルを取ってしまった選手が猛烈な脱力感に襲われて、「さあ、次の五輪も」という周りの期待を他所に急減速してしまう話はよく聞きます。彼も世界の最高峰、エベレストを命がけで制した後、「やっとこれで登山をやめられる」と思ったんだそうです。しかし、偉業を達した後、大学に戻ると応援団も繰り出しての熱烈凱旋歓迎式典、記者会見に駆り出され、「さあ、次は何をしますか?」との問いに、「・・・・もう一回ヒマラヤに行って掃除をします」と、思ってもみない事を口走ってしまう。いや、ここで彼がとっさに口走ったおかげでこの本があるわけですが、
ヒマラヤで命がけのゴミ拾い(実際、死人も出ている)、日本でのPR活動、そしてベクトルを富士山に向けての活動・・・・。私もこの間お世話になったアメリカのマウント・レーニア国立公園の話も出てきます。富士山を称えるでもなく、マニアックな一部分を掘り下げるでもなく、「富士山の現実・入門編」といった仕上がりになっています。
 「富士山=レーニア山交流プロジェクト」の打ち合わせに東京に行く新幹線の中で読み、その日に本書にも登場するNPO富士山クラブの方と会ったのですが、「まー、若いのに色々考えてる人、あと、しゃべりだしたら止まらない人」というのが彼らの著者評です。
 野口さん、ゴミ拾いもいいけど、一回富士市に来て、この「煙突の森」をどうするか、一緒に考えてみないかい?と声をかけたくなりました。繰り返しになりますが同い年、団塊ジュニア世代、彼も私も娘の父。自分も頑張らねばなあと気合が入った一冊です。