日本版スローシティ―地域固有の文化・風土を活かすまちづくり

日本版スローシティ―地域固有の文化・風土を活かすまちづくり

日本版スローシティ―地域固有の文化・風土を活かすまちづくり

アメリカやヨーロッパで上手くいった「まちづくり」や「地域再生」をそっくり日本に植えつけたところで絶対にうまくいかない。その土地にはその土地に合った街の生かし方があるはずだというのが本書の趣旨です。

 「大型店=悪」「商店街=かわいそうな弱者」という構図から一歩踏み込んで、補助金とチープなアイデアに踊る「街並み活性化」論をばっさばっさと斬る様が大変読み応えがあります。そもそも、店が大型か、小型かなのではなく、グローバルに展開する大資本は、法の隙間、地域の隙間を見はからって
画一的なサービスで安心感を与えるのが商売。セブン&アイホールディングスが、ヨーカドー、セブンイレブンデニーズを上手に使い分けながら儲けまくる仕組みの説明は「なーるほど」とうなってしまいます。「大量一括仕入れで安く買い叩く→値引きをしないで定価で売る→バイトやパートを使いまくって人件費を減らす=過去最大の利益」なのです。このようなビジネスモデルを維持するためには、常に安く買い叩かれる生産者(含:外国の農家)がいること、安く買い叩かれる労働力(非正規雇用の社員)がいること、短いトレーニング期間で即戦力になるように、徹底的にマニュアル化されたサービスがあることなどが大前提になります。便利、きれい・・・しかし地域は着実に均質化し、使い捨てられて行く・・・その行く末は「ファスト(荒廃した)風土」なのです。
 
 かといって、既存の商店街はすべて善かというとそうではありません。「男性化する街・女性化する街」という項がありますが、筆者はこれまで街のマーケットの中心にあった「カップルが似合う街」というコンセプトは急速に廃れつつあることを指摘しています。「そこに需要があるから」という、ただそれだけで商店主が特定の業種にテナント貸しをした結果、特定の性別、特定の年代だけをターゲットにしたような街が増えていると嘆きます。「北の歌舞伎町」といわれ、きれいに整備された表通りに風俗店が立ち並ぶ群馬県太田市の事例は、我が街の行く末を見るようで背筋が寒くなりました。「相続税をうんと高くして、商売をしない人には相続できないようにしなさい」と、なかなか過激な指摘が続きます。確かに、サラ金と飲み屋に貸して、大家さんは郊外で悠々自適」あるいは、「変な人に借りられるなら、シャッターを下ろして物置代わりにした方がまし」と考える商店主が集まる商店街ならば、周りがどんなに音頭をとったとしても全く上手くいかないと思います。
 
 「商店街を活性化させる」のではなく、「サードスペース」(家でも、職場でもない、公共スペース)を取り戻す為に何が出来るのか、それが上からの押し付けではなく、自然に進めて行くにはどうすればよいのか、真剣に考える時に来ていると思います。いろいろなヒントが紹介されていますが、中でも
「面白いな」と思ったのは、プロサッカーチームの位置づけです。イタリアでは、人口10万人以上の街には必ずといってよいほどプロサッカーチームがあり、チームが街の誇りであり、社交の場になっているというところ、非常に示唆に富んでいました。
 
 私自身、札幌にいたときは、家が近かったので毎週のようにサッカーかプロ野球を見に行っていました(何しろ自由席が1000円ちょっと)が、あれは大変楽しいです。試合後に街に繰り出して一杯やるのがまた楽しい。

 かつて、我が街、富士にもかつてJFLチームがありました(なくなってしまいましたが)。おかげでこんな街によくこんないい競技場があるなというくらいに立派な競技場もあります。ちょっとスタンドに手を加えれば、J2レベルは余裕でクリアできます。この街出身のJリーガーも、日本の守護神川口を筆頭に、けっこう沢山います。今、現役の第一線で頑張っている彼らが引退して指導者になる頃に合わせて富士にJのチームを作り、富士駅前や吉原中央駅前からシャトルバスをがんがん出したら「飲み屋商店街」ももう少し明るい方向に進んで行くような気がしますがいかがなもんでしょうか。

と、まあいろいろと示唆を与えてくれるよい本です。

富士市図書館318.7