全国5000人の「地理屋さん」は正座して読むべし

 

新装版 劒岳 ―点の記 (文春文庫)

新装版 劒岳 ―点の記 (文春文庫)

 「地理屋さん=職業的地理学徒」。お金を出して地形図を「仕入れる」人々。1都道府県あたり100人として、このくらいじゃないかなと。

 物語は、主人公(実在の人物です)が、半年に及ぶの「三角点敷設の旅」を終えて、東京・三宅坂の陸軍陸地測量部の門をくぐるところから始まります。帰って早々に、「未踏の山、剣岳に登頂し、三角点を置け」という命を受けた主人公は、返す刀で立山連峰剣岳の調査に入ります。新婚ほやほやの27歳は、新妻を置いて山で死に掛かったり、たくさんの年上の「部下」達を指揮したり苦労を重ねながらまた山に入ります。

 能力主義で若くして管理職になった人には「ビジネス小説」として読めるでしょうし、山好きには「山岳小説」として読めるでしょう。しかし、あえてここではこの本を「地理小説の金字塔」と呼びたいところです。

 気象庁の技官と二束のわらじで小説を書いた著者は自伝ともいうべき著書「富士山頂」でも知られていますが、長いあとがきに書いてあるように、測量に関しては全くゼロから付きっ切りで取材をしたそうです。「三角点」とは何をするものなのか、三角点を元にどうやって地図を書くのか、これを読むと、地形図を見る面白さが間違いなく倍増します。

好きな人は、手元に地形図を備えたいところ。現代の地図でよければ、「ウォっ地図」のサイトやGoogle Earthなんかがよいかと思います。

 ネタ晴らしで恐縮ですが、測量官・柴崎芳太郎をして置いて来れなかった三角点が剣岳の山頂に置かれ、正式に標高が測られたのはなんと2004年になってからとのこと。GPSでさくっと計ってしまった現代のテクノロジー。ちょっと物寂しいような気もします。

【リンク】

 ○剣岳(ウオッ地図)
 http://watchizu.gsi.go.jp/watchizu.aspx?latitude=36.60270833&longitude=137.6174222