重厚かつ人間味ある経済小説

男子の本懐 (新潮文庫)

男子の本懐 (新潮文庫)

 学生の頃、読もうとして挫折。
 日本史で「昭和初期の金解禁」がさっぱりわからずアレルギーがあったが、経済の事を勉強したり教えざるを得なくなったおかげで面白く読めるようになったのと、それなりに経験を積んだからか。
 浜口雄幸もよいが、井上準之助に惹かれた。特にニューヨークに「飛ばされて」、不遇の中でだんだん壊れていく様は泣ける。それでもめげずに勉強を続けた不屈の精神は強い。
 久々に何度も読んでみようと思った小説。「全集」第一巻の冒頭に挙げられるだけあるのでは?

芸能界に学ぶマーケティング

AKBの本というより、マーケティングとはどういうものなのかを手っ取りばやく知る上で良い本。
小論文や面接の指導で頭を抱えている先生方、生徒募集に四苦八苦している学校の募集担当にオススメしたい。
手取り足取り作り込むのではなく、コンセプトをピシッと決めて、マーケットを読めば、後はキャストが動いて行くし、競い合う。

図書館本二種

図書館で調べる (ちくまプリマー新書)

図書館で調べる (ちくまプリマー新書)

図書館を使い倒す!―ネットではできない資料探しの「技」と「コツ」 (新潮新書)

図書館を使い倒す!―ネットではできない資料探しの「技」と「コツ」 (新潮新書)

 現役図書館員にしてライターの著者の最新刊。
ちくまプリマ―だけあって極めて平易な文章で、ある程度図書館を使っている人にはちょっと薄味かもしれない。ただ、「コラム」はとても面白いので、それだけでも読む価値はある。

 同じ「図書館もの」なら、後者の方がインパクトがある。こちらは、地方経済の特集を組む("名古屋もの”、″大阪もの”など)機会や出張が多い経済誌の記者が、その土地のことを一気に調べ上げるときのノウハウをまとめたものである。小論文対策などで「図書館調べもの初心者」には、この本をお勧めしている。本好きなら前者を、とにかく期日までに切れ味の鋭いレポートを書くためのノウハウを得たければ後者といったところか。

SEの世界

ウチのシステムはなぜ使えない SEとユーザの失敗学 (光文社新書)

ウチのシステムはなぜ使えない SEとユーザの失敗学 (光文社新書)

SE の教科書 ~成功するSEの考え方、仕事の進め方 (技評SE新書001)

SE の教科書 ~成功するSEの考え方、仕事の進め方 (技評SE新書001)

SE(システムエンジニア)とは何をする仕事なのか?
大学の「○○情報学部」って何をするところなのか?
ざっくり理解する必要に迫られて、この2冊を通販で買ってみた。(Amazonも大きなオーダーメイドの“コンピューターシステム”だ)。

 前者は、SEとはいかにしんどく、かつ浮世離れした仕事なのかを面白おかしく説明している。コンピューターシステム、つまりオーダーメイドのIT注文住宅(自分達の場合はそんなゴージャスな物のお世話になる機会はあまりないが)は、そのまま大工と現場監督の関係に該当するという例えは、なるほどと思った。実際、「ITゼネコン」という言葉があるくらい、「下請け」や「分担」が徹底している業界なので、全体を見渡しながら旗を振る役が必要らしい。ただ、「施主」がしっかりしましょうねというメッセージを伝えるために、ここまで茶化していいものかと心配になってくる。特に最終章の「小説」は面白いけどひどい。ちょっと蛇足感がぬぐえない。

 ちょっと後味の悪い読後感があったら、正統派の後者を読むことを勧める。「料理人、素材を語る」みたいな感じでよい。後者から読んで、「なんか、堅そうな業界だな」と思ったら前者を読めばよいし、
前者を読んでうんざりしたら、後者を始めとした「SEによる、SEのための」本を手に取ってみたらよい。

 なんにせよ、楽で華やかな仕事なんてないのだから、愚痴ってないでしっかり仕事しなさいと言う事か。

「撤退」戦の戦い方

動かないコンピューター ― 情報システムに見る失敗の研究

動かないコンピューター ― 情報システムに見る失敗の研究

孫正義 リーダーのための意思決定の極意

孫正義 リーダーのための意思決定の極意

前者は2002年に出された「日経コンピュータ」誌の連載をまとめたものである。
「日経」シリーズには、「日経ビジネス」に「敗軍の将兵を語る」という大変面白い連載があるが、あれのコンピューターシステム版と言える。
後者は、ソフトバンク孫社長が後継者養成のために始めた社内学校での講演を基に新書の編集部がまとめたもの。
 共通するのは、「これは失敗だ」と思った時、責任の所在がはっきりして、トップが「やめる」決断ができたかどうかである。孫氏の言葉を借りるなら、「ぼろくそに言われようが何をしようがすべてかぶる」ことである。「こんなにお金をかけたのだから」「一度動き出したものなのだから」と、ずるずる引きずれば引きずるほど傷口は悪化して行く。そもそも、コンピューターだからと言って「完璧」なわけがない。何十億円もの開発費を「どぶに捨ててしまった」ような事例も出てくるが、それを大損と見るか、早いうちの「損切り」と見るかは、経営者の力量になるのだろう。

 ソフトバンク自体のシステムトラブルについて見ると、「ヤフーBB」のトラブルが興味を引く。社運をかけて挑んだプロジェクトで、驚異的な安さで募ったところ、申込者が殺到してダウン。派遣社員が顧客データを流出させるなどのトラブル続きの船出に孫社長が採った策は「なるほど」と思えるものだった。順風満帆の大企業のように見える会社も、ありとあらゆる決断と選択の上に成り立っている事が分かる。
 「産業革命」の初期の頃に巻き起こった、笑ってしまうようなトラブルも当時の人は真剣に取り組んでいたように、もう何十年かすると、コンピューターシステムのトラブルも笑って流せる時代が来るかもしれない。ただ、いつの時代も失敗を失敗と認め、更迭するのではなく再チャレンジの場を用意する(ソフトバンクは「異動」はあるが、基本的に「リストラ」はないという)リーダーの懐の深さが組織の命運を分けるように思える。

「世界のタミヤの起死回生

しずおかの文化新書2 シリーズ知の産業 しずおかホビーは凄い! (しずおかの文化新書 2 シリーズ知の産業)

しずおかの文化新書2 シリーズ知の産業 しずおかホビーは凄い! (しずおかの文化新書 2 シリーズ知の産業)

木製模型メーカーとして限界を感じていたタミヤ
より精巧な模型を作って起死回生を図るべく作った「戦艦大和」で失敗。
起死回生を図り、当代隋一の画家に「箱絵」を依頼し、誰も作ったこと
がない「戦車」に社運を賭け・・・・。

「成功ストーリー」だけでなく、大失敗、小失敗がちりばめられた静岡の模型史。
作者も出版も「静岡ローカル」な本だが、非常によくまとまっていて楽しく読める。
丹念な聞き取り調査の跡が伺えるが、対象と適度な距離を持って淡々と語る。

建築と都市でつづるバルサ

バルセロナ―地中海都市の歴史と文化 (中公新書)

バルセロナ―地中海都市の歴史と文化 (中公新書)

芸術と混沌が入り混じる旧市街
時の権力に常に警戒され、市街に拡張を禁じられたり、マドリッド流の都市計画を押し付けられた市街、産業都市の急成長に対応しきれずに無残な姿を晒した沿岸部。
この街の歴史を見ていると「大阪」のようである。
サッカーですっかりおなじみになったバルサだが、地元の文化にこだわりながら国際化を遂げた都市の歴史は面白い。