一秒にかけた四百年−

経度への挑戦 (角川文庫)

経度への挑戦 (角川文庫)

 地理の教師をしていて、「緯度」と「経度」の話を何年もやっていながら、見落としていたテーマをがつんと見せられた思いがする本でした。

著者は、ニューヨークタイムズの科学欄を長年担当した女性記者。米国、英国ではベストセラーになっています。「経度をいかに正確に測るか」という、単純な課題に対して、私たち人類は、実に長い時間をかけて頭を巡らせてきたことが分かります。それは、錬金術永久機関の研究と同じで、実現は不可能に近いと考えられながらも、考える過程で様々な科学的な法則や発見という副産物をもたらせました。「経度を正確に測る方法を編み出した者には、国王の身代金と同額の賞金を与える」というお達しの下、世界中の科学者達がこの難題に取り組みました星の地図」を作って見え方から時差を出して経度を推測するもの、方位磁針の指す向きと北極星の位置のずれから経度を測るもの、海の上で等間隔に停船した船の上から花火を挙げさせて、光と音の到達時間の差から距離を割り出して経度を出すというものなど、悲惨な海難事故が絶えなかった時代だからこそ、関係者の努力は涙ぐましいものがあります。

 最終的に勝ったのは一介の時計職人でした。時計と経度にどんな関係があるのでしょうか。「経度から時差」を出すのではなく、「時差を正確に測ったら経度が出る」という発想に立って創られた「海上時計」がなかったら、今日のようなグローバル輸送は到底かなわなかったでしょう。

 GPSやカーナビが全盛の今日ですが、2つの時計の時間差から距離を割り出すことに関しては、「海上時計」の頃と変わりません。原理原則から語りたい、ちょっとマニアックな地理教師にはうってつけの一冊。科学書であり、歴史書であり、地理書でもあり・・・・読んだら絶対に授業で語りたくなるネタが満載です。